神田研の研究方針 −神田からの超真面目なメッセージ


1,はじめに

大学の研究室の運営方針は教官によって千差万別であり、また、学生・社会人の方の人生方針(大げさなら勉強方針)も千差万別です。万人にとって良い教育システムというのが存在するわけでなく、いわば相性の問題・選択の問題です。「私は元来怠け者なのでスパルタ教育でしごいて」、という人もいれば、「私は強制されたら絶対ダメ」、という放任型指向の方もおられるでしょう。一般論として、研究室所属を希望する方は、事前に訪問やHPを通じて、教官・研究室運営の方針と自分の相性を確認しておく必要があります。研究生活を充実したものにするためには、研究テーマや内容もさることながら、この相性が非常に重要です。教官の指導方針に共感できるか、できないか、研究室所属の出発点です。

2,学際的にやる

神田研究室でやっている研究は「都市の大気環境問題」であり、これに関わる学問分野は、気象学・水文学・土木工学・建築学・農学・化学・生物学、など多岐分野にわたります。このような学問体系は明治以降欧米から輸入してきたものです。いわば学問分野を細切れに分化して、分業化・専門化することによって効率を図ろうというわけです。それぞれの分業で作り出したパーツ(成果)を最後に足し算すれば複雑な問題の答えが得られるだろう、というのです。このような姿勢を「還元主義」といいます。大学教育のみならず、産業界にも基本的にこの構造が維持されています。しかし、環境問題というのは、そもそも非常に複合的で複雑なシステムですから、特定の分野で出てきた成果(パーツ)を足し合わせていっても複雑な問題の本質は見えないのではないかという議論が起こっています。

 本研究室では、既存の学問分野の枠にとらわれず、出来るだけ、自由に、複眼的に環境問題の解明に取り組もうと考えています。今までの研究室の研究テーマをご覧下さい(過去の研究テーマ)。大気の物理過程はもちろん、人間(体感温度)から植物(花粉拡散)に至るまで幅広い研究を行ってきました。大学院から研究室に所属したいという人の学部までの専門は問いません。流体力学は全ての環境問題の基礎なので知っていた方が良いですが、ほとんどの工学部・理学部系学科で習っていることでしょう。学んで欲しいのは「知識」ではなく、未解明の現象の解明にアプローチしていく研究プロジェクト推進の「手法」、です。多くの情報・データの山から、ターゲットとする現象を説明するための材料を見抜き、簡潔なロジック(論理)を構成していく「手法」を学んで欲しいのです。

3,世界をめざす

何事においても最高の勉強方法は、「最高のものに触れる」ことだと考えています。本物・高質なものに触れていると、偽物・低質なものがたちどころに見抜けるようになってくるものです。食・芸術などと同様です。学問の世界で言えば、自分の成果を世界に向けて発信し、世界の研究レベルの中で競争することに他なりません。今までの神田研の卒論・修論の成果の多くはInternational Journalと言われる国際誌に投稿され世界共通の公文書として記録されています。人間は遺伝子という形で自分の足跡を後世に残すわけですが、それ以外に自分の卒論・修論の成果を文字媒体として世界に残せるというのは大変すばらしいことだと思いませんか?

 はじめは自分のレベル相応にとか、まずは国内で、と考えては絶対にいけません。はじめから世界に目を向けてスタートすることが肝心です。東工大に入学出来る人なら、直ぐに世界レベルの研究で活躍する喜びを味わえることでしょう。研究室生活を、サークルの延長のように捉え、適当にバイトと両立しながらやっていこうと考えている人にはお勧め出来ない研究室です。そのような学生さんも希に入ってこられ、あまりハッピーには見えず、不満をこぼしがちです。もちろん最後まで面倒を見ますが、私もつらいです。高い学問レベルに身を置き自分の可能性を追求してみようと言う前向きな姿勢でこられる人は、逆に研究生活を(忙しいながらも)楽しんでいるようで、見違えるように成長して卒業されていきます。教官としても幸せな限りです。

4,人生を楽しむ

当たり前ですが、研究云々以前に人生を楽しむことが大切です。研究生活が次のステップのための幸せの準備期間であって良いはずはなく、毎日の研究生活それ自体が楽しくなければやっている意味がありません。かく言う私は、博士課程の頃は365日休みも取らず、修行僧のようにマゾ的に頑張っていたものですが、一番いけないパターンです。私の20代は研究漬けで、おれの青春どこ行った?みたいな(暗っ…..)。30代でドイツに留学し、人生楽しまなくては、と発想を転換しました。休息と勉強のメリハリをつけると不思議と逆に両方が充実してくるものです。従って、土・日・祝は完全OFF、夏季・冬季もまとまった休みを取るように学生さん達には指導しています。

休日はしっかりと遊び、普段は世界を目指して勉強する。それがうちの方針です。

海外留学も強力にサポートしています。現在、ドイツハノーバー大学と交流しており、研究テーマによっては、ドイツ政府の出資で1年間留学が出来ます。カナダ・シンガポール・イスラエルなどとも交流を計画しています。

5,一人屋台方式

一人屋台方式とは、日本の家電メーカーがアメリカ型のベルトコンベアー分業方式に対して打ち出した画期的な生産方式であり、一人の技術者が一つの製品を初めから終わりまで責任をもって組み立てる方式です。一見効率が悪いように思えますが、多様なニーズに容易に対応出来き、なにより、技術者の充足感が大きいという利点があります。神田研の研究方針に通じる方式です。どんなに小さいプロジェクトでも学生一人一課題で、完結したテーマに取り組んでもらうようにしています。多くの研究室では、数値計算・実験・観測・データ解析というようツール別に分化し、学生さんのテーマをそのどれかに特化したり、大きなプロジェクトの小さなパーツだけ(データ取得担当、解析担当など)を分担してもらったり、といような傾向がありますが、うちはあくまで完結性(その結果だけで1つの報告に値するようなテーマのこと)にこだわります。従って、必要なら一人でいくつかのツールを複合的に使用する必要性も出てきます。お互い異なるが関連するテーマをゼミで紹介しあい、切磋琢磨するのは楽しいものです。繰り返しますが、自分自身の研究テーマで世界に報告出来る成果が出たときの喜び・充足感は非常に大きなものです。一人屋台で研究を完結させる手法・経験は、大きな自信となり、卒業して全く別の仕事やプロジェクトについても、広く応用の効くものだと確信しています。


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